茎皇子さまの国

茎王子様の国

茎皇子さまの国

 

 私のようなものが、こうしてみなさまの前でお話する大役を仰せつかりましたのは、たいへん勿体無いことでございます。このようなお話をするのにも、他にふさわしいお方があまたおられましょうが、どのようなめぐり合わせか、このたび私がご指名を賜りましたので、ふつつかながら、ここでつたないお話を勤めさせて頂きたく存じます。
 茎皇子さまのお生まれにつきましては、詳しいことは存じ上げません。一説によれば白馬の時代とも言われ、また別の説では子招きの頃とも言われているようでございます。茎皇子さまがお生まれになったころ、大地はたいへん荒れ果てていたそうでございます。夜叉、亀、のろま鬼などが跳梁跋扈し、団子雲、布団空などと呼ばれる重苦しいものが、空を覆っていたそうでございます。飢饉が何年も続き、多くの民が病に倒れ、苦しんでいたそうでございます。
 茎皇子さまはお生まれになって間もなく、長い旅に出られたと伺っております。持ち前の多数のおみ足を自在に繰り、野を越え山を越え、途中出会った幾多の部族と戦い、それらを滅ぼしつつ旅をしたと伺っております。
 茎皇子さまの側近のたどん丸は、その旅の途中で茎皇子さまと出会い、お仕えする身になったと伺いました。
 この遠征での茎皇子さまの華々しいご戦歴につきましては、他に書き記したものがあまたございますゆえ、みなさま既にご存知かと思われます。
 そうそう、茎皇子さまが一度、二つに切られたことがございました。詳しいいきさつは存じ上げませぬが、戦いの最中に、天より、それはそれは大きな壁のようなものが降ってまいり、なんとまあ、みごとに茎皇子さまのお体を真っ二つにしたのでございます。
 茎皇子さまはたいそうお苦しみになり、前半分の茎皇子さまはただピリピリと震え続けていたそうでございます。たどん丸はどうしたことか、オロオロするばかりで、重傷を負われた茎皇子さまのまわりを、毎日くるくる廻っていたそうでございます。まことに頼りない側近の姿ではございませんか。
 それでも、やがて茎皇子さまはご回復されたのでございます。なんとも、力強いご生命力としか申せません。前半分の茎皇子さまはほぼ以前に近いお姿になり、後ろ半分の茎皇子さまは、やや小ぶりながらも、お元気になられたのでございます。こうして茎皇子さまがお二人になられたことで、こんどはたどん丸がたいへん困ったそうでございます。まして後ろ半分の茎皇子さまがたどん丸を攻撃なされようとするので、なんですか、さまざまな経緯もございましたようですが、結句たどん丸が茎皇子さまの後ろ半分を食べてしまったそうでございます。まことにおいたわしいお話でございます。
 茎皇子さまは遠征から戻られて、すぐ花姫君とごいっしょになられたのでございます。花姫君は茎皇子さまと種族が違いますゆえ、お二方のあいだにお世継ぎはございません。花姫君が、ご一緒になられた時すでに五人のお子達をお連れでしたので、そのお子達が茎皇子さまのお世継ぎになるのであろうと、民の誰もが考えておりました。
 それから、あの恐ろしい事件が起こったのでございます。なんでも、月が三つも四つも出る多月夜の晩のこと。花姫君がうなされて、次の間に休んでいたたどん丸に、襲いかかったそうなのでございます。たどん丸は自分の身を守るのに必死で、花姫君の右目を、その場で噛みちぎったと言われております。それでも花姫君のご狂乱は鎮まることなく、仕返しにたどん丸の左足三本を噛み切ったうえ、ご自身の五人のお子達のうち二人までのはらわたを、あの鋭い爪でえぐりとったのでございます。
 これはもう、お話するのも恐ろしいことでございます。その場のご様子は、まさに地獄絵図と呼ばずしてなんと呼びましょうや。
 茎皇子さまがこの騒動に気付かれたときには、花姫君の生き残った三人のお子達が、花姫君を押さえつけ、食べ始めているところだったそうでございます。一説によりますと、この時たどん丸も一緒に姫君を食べていたと言われておりますが、私には詳細は判りかねます。かさねがさね、おいたわしいお話ではございます。
 その後、茎皇子さまは残ったお子達三人のうちの一人をご自身の嫁に取られ、こんにちのような、平穏な世の中ができあがったのでございます。
 たどん丸につきましては、みなさまご承知のようにあの事件のあと放逐され、今は、遥か彼方の地で暮らしているとの噂でございます。たどん丸がそこで同種族の者を束ね、やがてこちらに攻め入ってくる、とお考えの向きもあると伺いました。しかし少なくとも私には、そのようなことがおこるとは思われません。たどん丸はもはや高齢です。足も三本不足しているわけでございます。恐るるに足るものではございますまい。
 みなさまが本日なさいますように、年に一度の茎皇子さまへの生贄を絶やさぬ限り、この世は安泰なのでございます。
 どうか今宵も、かねての慣わしどおり、六人以上のお子達を持つ方はそのうちお一人、十人以上のお子達を持つ方はお二人づつを、茎皇子さまへの生贄としてお捧げください。
 順番の札はお手元にお配りしてございます。番号の若い方から、こちらのお列にお並びください。ご自身の番号が呼ばれましたら、生贄のお子達をお渡しくださるだけでけっこうです。茎皇子さまは、なるべく若く肉の柔らかい者がお好みでございます。
 最後となりますが、我らが茎皇子さまのみ国のますますのご繁栄と、みなさまのご家庭のご安寧をお祈りして、不肖私は、これにて退かせていただきたく存じます。お耳汚しの段たいへん失礼つかまつりました。最後までご静聴、まことにありがとうございました。

茎王子様の城

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