豆腐の祭り

豆腐の祭り

豆腐の祭り

 
大きな
とても大きな
豆腐のようなものが道をやってくる
白くて四角くて
根もとのあたりは
木の台座に乗せられているようだ
それを屈強な男たちが担いでいる
みな裸に白いふんどしと赤い足袋だ
「おいらー」「おいらー」
と聞こえる掛け声をとなえ
男たちは白い塊を揺らしている
白い塊は台座の上で
ゆっくり鷹揚に揺れている
立ち並ぶ家の二階から女が顔を出し
おひねりのようなものを投げた
下で誰か受け取ったようだ
先導している年寄りが
ひしゃくで男たちに水をかけた
水が跳ねてまわりの子供たちは大騒ぎだ
「これが言っていた祭りかね?」
と私は連れに聞いた
「昔はこんなじゃなかったですけどね」
と言ったきり彼は黙っている
昔はどんなだったのかが判らない
 
風呂から上がって旅館の部屋に戻ると
夕食の膳が出ていた
膳に人魚のようなものが乗っている
上半身が女性で下半身が魚だ
サイズは人間よりだいぶ小さい
それが舟盛り用の舟に寝そべっている
なんとなく生きているようだ
連れが箸の先で
人間と魚の変わり目あたりをつついた
人魚はキャッと言って身を縮めた
「昔はこんなじゃなかったんですよ」
と彼は神妙な顔だ
ますます判らない
 
帰りは象引き列車で行くことになった
五・六頭の象が長い紐で繋がれ
十台ほどのトロッコを引っ張る
トロッコはむき出しだから
雨の日は休むそうだ
幸い天気には恵まれた
線路の片側は草深い山で
反対側が切り立った崖になっている
遥か崖下に三角帽子のような
尖った民家の屋根がたくさん見える
屋根はみな金属製らしく
それぞれ見事に磨き上げられ
朝日にぎらぎら光っている
あすこへ落ちたら痛そうだ
それにしても象が進まない
時々歩くのをやめて
文字通り道草を食っているらしい
象使いが
喉から笛のような声を上げて
鞭を振るった
何頭かの象が鼻を震わせて
苦しそうにうめく
トロッコが揺れる
「おいおい落ちやしないだろうね」
と私が言うと
「昔はもっと情緒があったんですよ」
と連れはすまし顔だ
いったいどんな情緒だ
と私は思った

象引き列車

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