永遠の高校生

夜の高校

永遠の高校生

 

四十歳を過ぎた城山丈吉だったが
心は高校生のままだった
丈吉は夜の学校に忍び込み
校庭に
名も知らぬ植物の苗を埋めた
四十歳を過ぎた記念に
植樹をしたかったのだ

 

土に苗を埋め
まわりを踏み固めて
じょうろを取り出して水を注いだ
するとそれまで萎れていた植物が
みるみる息を吹き返した

 

垂れていた枝は上を向き
閉じていた葉が開いた
枝はするすると伸びて
丈吉の鼻先に達し
小さな蕾から花が開いた

 

花の香りを吸い込み
丈吉は大きくむせた
くしゃみも止まらなかった

 

でも丈吉の心は晴れていた
いつかこの苗が大木となるとき
俺はきっと
一歩踏み出せるのではなかろうか
どこに踏み出すのかは知らぬが
それはまさに
偉大な一歩となるだろう
丈吉の胸は希望に震えていた

 

屋上の柵を乗り越えて
丈吉は夜の校庭を見下ろした

 

昔はここから飛び降りられるような
気がしたものだ
今もそんな気がする
どこか遠くで
犬の吠える声がした
風も鳴っていた

 

丈吉は屋上のへりから
目の前の
何もない空間に歩き出した
手を大きく上下に動かすと
体は宙に留まったままだった
丈吉は手の動きを抑え
ゆっくりゆっくり高度を下げて
校庭に下りて行った

 

つま先が校庭の土に触れた時
丈吉はそこを蹴り
ふたたび舞い上がった
高く高く登り
夜の街を空から眺めた

 

家々の窓には
ぼんやりと灯りがともり
街路灯は点いていたが
街に人影は無かった
風が吹いていた
丈吉は詰襟の学生服をなびかせ
夜の街の上を
いつまでも飛び廻った

 

下駄箱が立ち並ぶ
向こう側の暗がりを
なにやら得体の知れないものが
通り過ぎた
丈吉は下駄箱の蓋をいくつか開けてみたが
中はみな空だった

 

しかしいくつ目かの箱の中に
小さな封筒が置かれているのを発見した
丈吉はその
色あせた封筒を取り出した

 

手で砂とほこりを払い
小さく折り畳まれた手紙を取り出した
変色した紙のうえに
釘のような文字で
「ずいぶんおそかったね」
と書かれていた

 

丈吉は真っ暗な校庭で
犬と遊んでいた
手に何も持たず
それを遠くに投げる動きをすると
犬は喜んで走り去り
何か咥えて
戻ってくる動作をした
丈吉と犬は
何度もその行為を繰り返した

 

そしてひときわ大きく振りかぶり
遠くに投げる動きをすると
犬は
それまでより早いスピードで走り去り
二度と戻って来ることがなかった

 

四十歳を過ぎた丈吉は部屋に戻り
学生服を脱いでノートを広げた
机の隅の鉛筆削りをひとしきり回し
丈吉はノートに書きはじめた
「俺はもうすべてを学び尽くした」
「それなのに何も知らない」
しばし手を止めて丈吉は考えた
「はじめから」
と彼は書き続けた
「学べることなど何も無かったんだ」

鉛筆削りと学ラン

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