ラジオ

和室にラジオ

ラジオ

 
ラジオを聞いていたら
この世の終わりですというニュースが入った
これ幸いと思っていると
やっぱり誤報でしたと言っている
近頃のラジオはいいかげんだ
すごく作り物っぽくなっている
昔はニュースがなければ
アナウンサーが事件を起こしたものだ
火事のニュースがなかったら
局に火をつけたものだ
それが常識だった
昔の新聞記者は
犯罪を犯しながら記事を書いたと聞いている
戦地のカメラマンは
味方を後ろから撃ったと聞いている
勇敢な人間が少なくなった
報道の自由も地に落ちた
この世の一つや二つどうして終わりにできないか
人の一人や二人殺せずに
報道の自由が守れるか
 
そういえば根性のある男がいなくなったかわりに
色気のある女も少なくなった
昔は街中をすっ裸で歩いている女がいた
色気のある女はふつう裸だった
誰もとがめなかったし
PTAさえ許していた
学校だってそうだ
言うことをきかない子供は
殴り殺してよかったし
子供も教師を殴ってよかった
どちらが怪我しても文句を言う人はいなかった
どこの学校の廊下にも
一つや二つ死体が転がっていたし
屋上に生首が落ちてても驚かなかった
下駄箱に胎児が捨ててあっても
平気で上履きを取り出していたものだ
 
それにつけても軟弱な時代になってしまった
骨のある奴が一人もいない
昔はくらげにも骨があった
くらげは小骨に気をつけなさいと
母によく言われたものだ
蛸だって烏賊だって
背筋を伸ばして泳いでいたし
なまこも四つ足で歩いていた時代だ
 
あの時代には夢があった
テレビやラジオに出てくる人間は
悪者ばかりだった
いい人間なんか滅多にいなかった
水戸黄門でさえ旅人から小銭をくすねていた
五回に四回は悪者の勝利で終わっていた
あの頃のドラマは凄かった
今のテレビには真実がない
それに輪をかけてラジオが虚ろだ
 
昔のラジオは真空管が入っていたし
真空管に小人が入っていて
工事やなんかしていたものだ
最近のラジオは小人が入ってないから駄目だ
そう言えば昔は新聞のフチで手が切れた
今の新聞じゃ何も切れない
書いてある字だって
昔は読めない字ばかりだった
この世に存在しない活字さえ平気で使っていた
 
ああ あの時代が懐かしい
私は遅く生まれ過ぎた
退屈な平和はうんざりだ
臨時ニュースが待ち遠しい

夜の工場地帯に真空管

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