影の街

影の街

影の街

 
影の街に行ったことがあるかい
行き交う人はみんな紙なんだ
厚みの無い黒い紙だ
「やあこんにちは」なんて
紙の帽子を上げて挨拶してくるから
ぼくも「こんにちは」なんて言う
厚みがないから心も軽い
紙の自転車に乗った紙の人が来ても
ぼくも紙だからぶつからない
すれ違うのがすごく楽だ
 
影の街には日は射さない
いつだって夕暮れだ
いつもいつも
一年じゅう夕暮れだ
赤い光が街を覆い
ドアも壁も石畳も赤い
赤い街に黒い人たちだ
みんなみんな頼りなげだ
でも悩みなんて無い
だって紙だから
紙のお皿に紙の食べ物
影の街の人は
食べ物の味を語り合う
でもほんとうは
何も食べてないんだ
影の街の人は眠らない
眠くならないから
 
影の街の人はみんな笑顔だ
明日なんて考えない
昔を思い出したりしない
 
それでもぼくはあの街が好きだ
影の街で
いやな思いなんかしたことがない
誰かがぼくに
「こんにちは」と言うから
「こんにちは」と返す
「今日は良い日ですね」
ぼくもそんな気がするから
「良い日ですね」と返す
「どちらに行かれます?」と来るから
「そこまで」と返す
「それはたいへんだ」
「そうなんですよ」とぼく
「ごきげんよう」と言うから
「ごきげんよう」とぼく
 
影の街には日が射さない
永遠に夕暮れだ
どこもかこも赤い
いつだってそうだ
眠る人なんていない
眠くならないから
そう
誰でも
あの街にいるあいだは

影の街の夜

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