A町作文集

A街作文集

A町作文集

 
 今年、麻美ちゃんちの猫「しらたま」が子供を五匹生みました。しらたまは前足の先が茶色くて他は白いですが、生まれた子猫は三匹が白くて、あとの二匹は黒いブチと茶色の縞でした。子猫のお父さんは判らないそうです。麻美ちゃんは「しらたまのお腹がすごく膨れて心配したけれど、無事に生まれて良かった良かった」と言っていました。麻美ちゃんのお父さんは「また食費がかかる」と困っています。お父さんは、子猫を誰かに引き取って貰いたいそうです。
 麻美ちゃんのお父さんは、むかし工事の仕事をしていたのですが、カミナリに打たれてから働けなくなり、今は生活保護を受けています。お母さんが三年前に出て行ってから、麻美ちゃんとお父さんは二人暮らしです。でも麻美ちゃんは「しらたまがいるから寂しくない」といつも言っています。
 麻美ちゃんのお母さんがいた頃は、私も麻美ちゃんちによく遊びに行っていたのですが、このごろはあまり行きません。麻美ちゃんのお父さんは起きているときは怖い顔でお酒を飲んでいるし、寝ているときは麻美ちゃんや私が笑い声を出すと怒るので楽しくないからです。
 麻美ちゃんは絵が得意です。去年市役所が募集した家族絵画に「母蒸発」という絵を出して準優勝を取りました。私はその絵を見に行けなかったですが、見に行った同級生の清子ちゃんの話では「すんごい迫力だった」とのことです。
 私も麻美ちゃんみたいに絵がじょうずだったら良いなあと思います。麻美ちゃんみたいに絵がじょうずだったら、私は人の心の中を描いてみたいです。人はみんな優しそうな顔をして生きていても心の中に恨みや憎しみを抱えていると思います。そんな、ほんとうの人の心の中を私は描いてみたいです。
 
 夏休みにぼくのうちのお風呂が壊れました。お風呂が直るまでの間、ぼくのうちはみんなで三丁目の松の湯に通いました。ぼくは銭湯に行くのが初めてだったのでとても楽しかったです。去年おばあちゃんたちと行った沖縄のホテルの大浴場よりは狭かったけれど、なんだか毎日旅行してるみたいで楽しかったです。
 三丁目の松の湯は順子ちゃんの家がやっています。ぼくは順子ちゃんとあまり話したことがないですが、家で銭湯をやっていると順子ちゃんは毎日銭湯に入っているのかなと思いました。ぼくのお父さんは「入ってないと思う」と言っています。そうすると家が銭湯をやっていてもそれとは別にお風呂があるのかなと思います。なんか変だぞと思いました。
 順子ちゃんは去年、本屋さんで万引きをしてからしばらく学校を休んだそうです。ぼくは順子ちゃんのことはあまり知りませんが、万引きは良くないと思います。ぼくも本屋さんで漫画をつかんで走りたいと思うことがよくありますが、お父さんが警察官だからしないようにしています。弟のたかおは、小さいころよくコンビニでガムを盗んでいましたが、家に帰るとおばあちゃんに報告し、後からお金を払ってもらっていました。おばあちゃんはそんなとき「盗むことより嘘をつくことの方が悪い。たかおは正直だから偉い」と褒めていました。ぼくはなんか変だぞと思いましたが、おばあちゃんが優しい人で良かったと思いました。
 
 わたしのお父さんはメッキ工場を経営しています。工場が家の隣にあって、お母さんも昼間は二階の事務所で仕事をしています。工場には職人さんが五人いますがみんなとても働き者です。一番ベテランの大常本さんはいつもニコニコしてやさしいですが、宴会で酔っ払うとわたしに抱きついて来てちょっと怖いときもあります。大常本さんはいつもお菓子をくれますが、お父さんは大常本さんからお菓子を貰わないようにと言います。どうしてだか判りません。夕方工場に遊びに行くと大常本さんがお馬になって遊んでくれますが、お父さんは遊びに来ちゃいけないと言います。どうしてだか判りません。
 工場の職人さんは五人ですがわたしが幼稚園のころは八人でした。「リストラで減らしたんだ」とお父さんが言っていました。「リストラで減らした」ころ、よく工場の物が無くなったり窓ガラスが割れたりしました。ゴミ置き場が火事になったこともありました。「リストラの後はいろいろある」とお父さんが言っていました。
 
 ぼくのうちは理髪店をしています。店の前でグルグルまわる看板が去年壊れたのに、お父さんが直してくれません。難しいんだそうです。前は時々まわっていましたが、このごろぜんぜんまわらなくなりました。まわってなくても看板だからとお父さんは言っています。ぼくはまわってる方が良いと思います。まわってる方が看板らしいです。看板がまわってないからお客さんも来ないんだと思います。
 ぜんぜんお客さんが来ない日は、お父さんは店の前でタバコを吸います。ガードレールに腰掛けているときもあります。ぼくが学校から帰ってくると、遠くの方からお父さんが見えます。お父さんが見えるときは店の中にお客さんがいないので、ぼくは大きな声で歌を歌いながら店に入ります。お客さんがいるときは歌を歌うとお父さんに怒られます。
 ぼくは石鹸の匂いは好きですが、トニックの匂いが嫌いです。夕方トニックの匂いがキツいときは息を止めて店の中を走ります。朝はそれほどでもないです。ぼくは、お店のトニックが無くなって欲しいと思っています。ぼくは大きくなったら床屋さんにはならないです。パイロットになりたいです。パイロットになって、いろいろな国に行っていろいろな国の人と歌を歌ってみたいです。
 
 私の妹はちょっとバカです。クレヨンの短いのを箱にしまえません。短いのと短いのをいっしょにすれば入るのに、長いのの上に短いのを乗せるから蓋が閉まりません。お弁当箱も蓋を反対にして閉まらないと言っています。妹はさか上がりができません。私は二年生の時にできました。妹は、お姉ちゃん太ってると言いますが、妹の方が太ってると思います。私のスカートをはくとホックがとまりません。
 妹はよく怪人を見ます。パン屋さんの前でもお風呂屋さんの前でも見ました。怪人はすごく小さくて、杉山さんちのブロック塀の上も走ったそうです。公園で見かけたときはブランコに乗っていたらしいです。妹が見るのに私が一度も見ないのは、もしかすると妹がメガネをかけているせいかもしれません。私は、パン屋さんの広川さんのおじさんが怪人じゃないかと思いますが妹は違うと言っています。
 
 ぼくが住んでいる町は、とても良いところだと思います。お父さんもお母さんもそう言っています。「このあたりには人情がある」とおじいちゃんも言っています。ぼくもそう思います。ぼくのうちは三年前に引っ越してきましたが、前に住んでいたところとはだいぶ違います。ここのちょっと悪いところは空気が汚いのと飛行機の音がうるさいところですが、慣れるとあんまり気になりません。たくさん友達もできました。みんな良い人です。最初のころは学校に行くのが嫌なときもありましたが、今は毎日行っています。みんなのおかげです。
 学校で、ぼくはみんなと話をするようになりました。テレビのこととかゲームのことなんか、前の日に何を話すか考えるのも楽しいです。だから今では毎日学校に行くのが楽しいです。それからみんな話が面白いです。みんなの話を聞いていると、いつもいっぱい笑えます。
 ぼくは、できればこれからもずっとこの町に住んでいたいですが、お父さんが転勤になるとまた引っ越すかもしれません。でもこの町に来れてほんとうに良かったと思っています。

A町

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