津波
津波が空中で停止した海岸を
歩いたことがる
ビルのようにそそり立つ
波の下をそぞろ歩くと
頭上で
白い波頭が日に照り映えていた
そのころ私はあばら屋に住み
ガレージで犬を飼っていた
たぶんそれは犬だった
小さいときに拾ってきて
かなり大きくなるまで飼っていたが
一度もまともに顔を見たことがなかった
全身毛むくじゃらで
頭と尻の区別が無く
前にも後ろにも歩いた
餌をとる時も
どちらからでも食べた気がする
あのころ
氷は温かかった
町中に林立する氷柱に手を触れると
ざらりとした質感と
妙に懐かしい生暖かさがあった
そして
一つ一つの氷柱の中には
風を切って歩く姿の
人間が閉じ込められていた