砲弾の落ちる街
そのころ
いたる所に砲弾が落ちる街に住んでいた
橋の上にもマンホールの上にも
学校にも病院にも砲弾は降ってきた
砲弾は落ちた場所で爆発し
そこここで大きな土煙を上げていた
爆発しなかった砲弾も見たことがある
それは黒い金属に覆われた丸い物で
表面がザラザラし
半分地面に埋まっていた
さほど狂暴そうな物体には見えなかった
その街では
砲弾に当たって死んだ人もいたと聞くし
ぼく自身も破片にやられ
怪我をしたことがある
怪我の後遺症に苦しんでいるらしい人が
街中を歩く姿も見た
ぼくはそのころ
魚の消滅について研究していたが
急に字が読めなくなって困ってもいた
魚というものは
自身の身の長さの二倍ほどの径の
ガラスの筒に封じ込めておくと
消えてしまうことがある
この現象は昔から知られていたが
原因は不明だった
魚の運動不足が原因じゃないかと
ぼくはにらんでいた
ぼくの研究によれば
赤い魚のほうが赤くない魚より
やや消えやすい
でも字が読めなくなったので
そんな研究が進まなかった
本を開くと
活字がパラパラとページから滑り出て
下に落ちてしまうのだ
ぼくが図書館で本を物色していると
床が文字のかけらだらけになった
でもぼくに読めない言葉で書かれた本は
あまりそうはならなかった
自分で書いたノートの文字も
しばらくすると歯抜けになった
そんな中でも
ところどころ落ちていない文字があり
その文字と文字の間に
書いた痕跡が残っていることもある
その痕跡をたよりに
文をもう一度書き直してみると
いつもしっくり来ないのだ
内容が変わっている気がする
そんなことがよくあった
それでも病院の先生によると
ぼくの病気はありふれたものらしかった
自然に治ることもあり
一生治らないこともある
ぼくを担当したその先生は
診察の後になぜだか長い溜息をつき
カルテに書き込みをしたのだが
その文字の一つが床に落ちたのを
ぼくは見逃さなかった
あのころぼくが君に出した手紙って
結局届いたんだろうか?
開けてみたら文字があらかた抜けて
白紙だったなんてことは無いよね
君の住む遠い街では
そんな現象は起きていないはずだし
砲弾も時々しか降らなくて
魚もあまり消えないそうじゃないか
でもうどんのようなものが降るって?
それくらい大丈夫さ
うどんで死ぬ奴はいないよ
だけどなぜだか街中に死体の山が
いくつもあるって言っていたね
それは何故なんだろう?
そしてその山が
日に日に増える気がするとも
言っていたね
何故だろう?
判らない
ぼくにはきっと
判らないことの方が多いんだろう
とにかくあのころ
ぼくのまわりに砲弾の雨が降っていた
窓の外では一日じゅう爆発音が続き
ぼくは字が読めないのに
毎日君に手紙を書いていた