鯉

その鯉が泳ごうとすれば

顔に藻がからまる

目蓋の無い

空けっぱなしの目に

半開きの口に

藻がまとわりついて

容易に前へ進めない

 

そのうえ水がヌルヌルだ

鯉は澄んだ水を泳ぎたいのだ

もっとも

澄み過ぎていても良くないが

ほどほどに澄んだ水を泳ぎたい

ほどほどに澄んでいれば

遠くも見通せて

行くべき方向が判るはずだ

 

鯉は

自由に泳ぎまわれる自分を空想する

そんな自分が

いつかは有ったような気がしている

でも無かったかもしれぬ

そうこうするうちにも

藻が顔にからまる

右に泳ごうにも

左に行こうにも

藻がからみついて動けやしない

 

鯉は汗をかく

もがけばもがくほど

藻がからんで自由がきかぬ

体の力を抜けば

何の問題も無く思える

だが動こうとすれば

体は束縛されている

力を抜けば

いつでもこうだったように思える

だが進もうとすれば

苛立つばかりだ

 

鯉は今しがたのことが思い出せない

瞬時に忘れてしまう

だからまた泳ごうとする

そして藻がからまる

目蓋の無い

空けっぱなしの目に

半開きの口に

藻がからんで前へ進めない

 

鯉はその体をびくりと震わせ

ただただ

苛立つばかりだ

鯉

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