純情なカエル

純情なカエル

純情なカエル

 

 いやあれあの、オレあれだし。ただのカエルだし。オレ特に顔が良い方じゃないってのは分かってんだけど。そんなオレが言うのもなんだけど、君よくその葉っぱの上に乗ってるじゃん。そんなふうにさ。ちょっと横向いて乗ってるじゃん。そんな姿がなんかアレに似てるなと思って。なんかこう斜めに咲く花があるじゃない。なんだっけあの、白くて黄色くて斜めに咲くやつ。なんていう名前だっけあれ? なんだっけ? なんか花だよね。あれ花だよね。なんだっけね。なんか名前あるよね。なんか名前。なんだっけ? 何とかって名前だよね。何とかって、ね。
 そんなこと思ったりとかさ。君は虫だったら何が好き? ちっちゃな蠅は? あれ美味しいよね。美味しいよね。アレは美味しいよ。絶対美味しいよ。オレもアレ好き。ちょっと苦味があってさ。だよね。ピリッとしてて。ピリッとはしないか。しないや。なんでそう思ったんだろ? 変だね。なんでそんなこと思ったのかな? ピリッとなんか絶対しないよね。変だね。オレ変だね。ピリッとなんかしないよね。オレ今変なこと言っちゃったね。なんで言ったんだろう。変だよね。
 君目が大きいね。ずいぶん後ろの方まで見えるでしょう。いいなー。オレほらちょっとそんなでもないからさ。ほら見て。そんなでもないでしょう? だからこの辺までしか見えない。後ろから飛んできたヤツに気がつかないこともあるからさ。食べそびれたりとかね。でも大丈夫。オレけっこうすばしっこいから。向き変えるの得意だし。あっちの池にいたときなんてね。オレみんなに飛ぶの上手いって言われた。いやほんと。そんな言われた。自分じゃそれほどと思わないんだけど。普通かなと思うけど。でもそんな言われた。何でだろう? みんなが下手だったんじゃないのかな。何でだろうね。オレなんて上手くないのに。なんでだろう? なんでだと思う? 分からない? 分からないよね。そうだよね。そりゃそうだ。そりゃそうだよね。オレたちこんなふうに話するの始めてだもんね。そんな分かんないよね。そりゃそうだよ。分かんないよ。当たり前だよね。
 こんどあのさ、そっちの葉っぱに一緒に乗っていい? いやその変な意味じゃなく。そんなんじゃなくてさ。変な意味じゃなくてさ。友達としてさ。その方が良いかなと思って。駄目? 駄目なの? そう? いやぜんぜん良いんだけど。ぜんぜんオレはどっちでも良いけど。変な意味じゃないし。
 ええとあの、なんかアレだね。もうすぐ夕方だね。あれ? 何もう帰っちゃうの? 何で? どうして帰るの? カエルが鳴くから? そうなんだ。カエルが鳴くから帰るんだ。オレたちカエルなのに? そうなんだ。そういうもんなんだ。ちょっと驚いた。なんかいま驚いた。分かった。じゃあまたね。また会えるといいね。またね。そのときまでに花の名前思い出しとくから。きっとだよ。また会おうね。きっとだよ。
 行っちゃった。行っちゃったね。オレってイケてなかったかな? どうなんだろう? イケてないのかな。確かに顔はアレだけど。でもどうなんだろう? 話はそこそこ上手いと思ってるんだけど。どうなんだろう。どうなんだろうな。
 でもまあいいや。考えても分からないし。どうせ分からないし。明日また来てみればいいか明日また。オレカエルだし。帰ろっと。

カエルと池

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