ニゴリ町

ニゴリ町

ニゴリ町

 

 ニゴリ町からカタブキ町に行くならバスを使うといいよ。なにしろあのあたりは鉄道が通ってないんだ。途中にザクロ川があるだろ。あの川は毎日形を変えるからね。バスならハレツ橋を渡って向こうに行ける。楽しい旅になると思うよ。ぼくはもう何年も行ってないけどね。
 ザクロ川にはいろいろなものが浮いているよね。なんだか分からない果物の皮とか動物の皮とか巨人の皮とか。ザクロ川のカワカミはいつも深い霧がかかっているから何があるんだか分からない。巨人が住んでるってね。しかもその巨人は脱皮するとか。ぼくも巨人の皮は見たことがあるよ。こおんなに大きいんだ。手も足もびろ~んて伸びて、間抜けな感じだよね。

 でも巨人は見たことがない。誰も見たことがないんでしょ。だからいるのかどうか分からないね。でも見たことがないからっていないとは言えないよね。ただ見たことがないだけかも知れないじゃない。アレは人間の皮が伸びたものだって言っている人もいるよね。それは知ってる。でもそれは、そう思いたいだけなんじゃないかな。思いたいと思えちゃうことってあるし。みんなそうでしょ。
 大きな柿を食べる棘だらけのイノシシ知ってる? カタブキ町には普通にうろついているよ。あいつら柿にしか興味がないから凶暴ではないんだけどあの棘には気を付けないとね。刺さったら死ぬよ。そうやって死んだ人たちがカタブキ町では何人も転がってる。道端に。そんな死体を踏んで歩くのにも馴れないとさ。
 イノシシの棘で死んだ人には棘が刺さったままになっているんだ。みんなそのままだね。それを踏んで歩くのに意味があるんでしょ。カタブキ町ではみんなそうやって育つらしいよ。
 死んだ人から学ばないと人間は進歩しないからね。カタブキ町に行ってぼくもそれはすごく勉強になったんだ。死んだ人から何かがだんだん上がってくるんだよ。体の中に下から上へ。炭酸の泡みたいに。それがすごく何ていうかね。でも行ったときぼくはもう大人だったからちょっとだけしかだったけど。
 カタブキ町の人は麻で編んだ服を着てる場合が多いでしょ。ザラっとした。着るとチクチクするやつ。最初はすごく気になったけど馴れるよね。君も着てみるといいよ。カタブキ町ではアレが良いんだ。快適だよね。あの刺激が脳に良いらしいよね。
 カタブキ町の人は空も飛べるし体が透明になれるしいろいろ楽しい生活が待ってると思うよ。何日くらい行くの? 二三日。でも行ってみると長くなるかもよ。二三日のつもりが三年も四年もとか。そうなった人もいっぱいいるみたいよ。いっそのこと住みついちゃえばいいんだよ。
 ぼくの場合はちょっとアレで帰ってきたけどね。水が合わなかったっていうかな。ぼくはほら。一日じゅう水に浸かってなきゃ駄目なタチだし。きみは違うよたぶんね。肌も乾燥してるみたいに見えるし。きみはあれかな。もうすぐ羽根が生えるタイプかな。違うの? 背中がずきずきしたりしない? 違うんだ。じゃ舌がなが~く伸びたり。
 まあ人のことはどうでも良いや。ぼくも今日は泥を飲まなきゃいけない日だからあんまり長く話してるわけにはいかないんだ。もう行くよ。きみに幸運が訪れることを祈ってる。道中気を付けてね。
 ウワバミに噛まれないように。もしあれだ。霧の中に巨人の影が見えたら知らせてね。まあそんなこと滅多に起こらないだろうけどさ。もし起こったら知りたいから。毎日退屈だからこんなにしゃべっちゃった。気を悪くしないで。また会えたらいいね。じゃあまた。君の幸運を祈るよ。

家と巨人

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